妖怪 / 鬼██ 異常
鬼「ひらくな」
丑三つ時、山道の祠の前で、角を持つ大きな影が道を塞いだ。鉄の匂いがして、地面の霜だけが赤く染まっていた。
— 声に返事をすると、名前を取られるという。夜明けまでは戸を閉める。
信者 2,431 人
丑三つ時、山道の祠の前で、角を持つ大きな影が道を塞いだ。鉄の匂いがして、地面の霜だけが赤く染まっていた。
— 声に返事をすると、名前を取られるという。夜明けまでは戸を閉める。
杉林の上から、羽の音だけが降りてきた。赤い面の影は、風より先にこちらの名を知っていた。
— 高い枝で鈴が鳴ったら、山道を戻ってはいけない。
夕暮れ時、川辺の石の陰から、皿のある頭が覗いた。濡れた小さな足跡だけが、岸へ向かって続いていた。
— 頭を下げさせれば逃げられる。皿の水をこぼすな。
雪の畦道で、白い女が息を吹きかけた。声は優しかったが、まつげの先から霜が伸びていた。
— 約束を破った者だけが、次の吹雪で名を呼ばれる。
雨の夜、月のない浜辺で、濡れた髪の女が赤子を差し出した。受け取ると、腕の中の重さが石のように増していく。
— 波の音が消えたら、もう背後にいる。
古い屋敷の梁から、細い糸が何本も垂れていた。女は笑い、灯りの届かない天井へ消えた。
— 美しい声が聞こえても、糸には触れてはいけない。
真夜中、煤けた廊下の奥で、女の首だけが長く伸び、灯りの中を覗き込んだ。
— 首が戻る前に声を出すと、夜が終わらない。
長い坂道で、顔のない者が振り返った。目も口もないのに、確かにこちらを見ていた。
— 驚いた声を出した瞬間、自分の顔も薄くなる。
蔵の奥で、老いた猫が二本足で歩いていた。尾はゆっくり揺れ、皿の魚だけが骨もなく消えた。
— 夜中に猫の声で呼ばれても、戸を開けてはいけない。